• Feb
  • 11
  • 2008

原美術館でピピロッティ・リスト『からから』を観たよ

原美術館で、ピピロッティ・リストの展覧会『からから』を観た。映像の展示が多くて見応えがありそう。しかし混んでいる。そして閉館時間が近い。

案の定、急いで見て回るはめになるが、それでもなかなか面白かった。花を抱えた女性が幸せそうに笑いながらクルマの窓ガラスをたたき割っていく「エヴァー イズ オーヴァー オール」という映像作品は、不思議と見続けていたくなる。脇を通る警官の微笑みがまた良い。

なかでも、床に穴を空けて小さいモニタを埋め込んだ作品は、作品よりもそれを観ている人たちの方が作品っぽくて面白かった。

みんなで穴の周りにしゃがんでいるんだけれど、その絵面が面白いモノを見つけた子供たちが群がっているように見えて可笑しかった。そういうのを狙った作品だったんだろうけど、あそこまでいくことを想像してたんだろうか。やるな、ピピロッティ。

トイレの中にも作品があって、最終日の閉館間近だからか一つのトイレに7、80人並んでいるような異常事態になっていた。並ぶか迷うところだけれど、日本人特有の貧乏人根性が出たのか結局並んでしまった。これが間違いだった。

メガネとジーンズの似合う美人の係の人が閉館30分前にあと40分くらいだと思いますと言っていた。閉館しても見せてくれるのかと、少し感心したのも手伝って、これくらい我慢できるなと思った。

中庭に並んでいたので、結構冷える。申し訳程度にヒーターが置いてあったが完全に屋外なので本当に申し訳だ。ここが庭のきれいな原美術館だったから並んでいるんだぞと、建物の増築のしかたに感心しながら思った。

列の進み具合が異常に遅い。よく考えれば、トイレの個室に展示してあるのだから、1人ずつトイレに入って、1分ずつ観たとして、ざっと7、80分かかる計算だ。なんてこったい。

しかしすでに並んで結構たっているし、今さら列を離れるわけにはいかない。しかし寒い。閉館時間になって、庭に面したカフェも閉店になった。原美術館側の粋な計らいで、カフェの中に並ばせてもらえることになった。列の整理をしていたメガネとジーンズの似合う美人の係の人がカフェの片付けを手伝っているので、「何をしてるんだあの美人は!」と思っていたが、こういうことだったのか。さすがメガネとジーンズの似合う美人。少しでも疑った自分はなんと小さいことか。

温かくなったと言っても、列に並ぶのは辛い、両足に均等に体重がかかるように「休め」の姿勢を崩さず、軽く膝を曲げたりしてやり過ごす。もう時間の感覚がなくなってきた頃、やっとカフェとは庭を隔てている、ミュージアムショップのある棟ー展示のあるトイレがある棟—に移動できた。

あと5人くらいで順番という頃、謎のトリの鳴き声が聞こえてきた。誰かが「鳩時計か?」と言う。6時だ。もう1時間30も並んでいる。と、今この日記を書きながら気付く…。

何人か前に並んでいた夫婦とおぼしきカップルが、展示を見終わり、トイレから出て係員になにか聞いている。どうやら展示の意味が分からず、トイレの外で待ちくたびれているであろう人達のプレッシャーに負けたのか、意味の分からないまま出てきて係員に聞いていたようだ。係員に種明かしをされて「ああ〜」と漏らす女性の無念のため息が切なかった。

出品作品リストによれば、このトイレの展示「隠れたサーキット」は、

鑑賞者参加型の作品。通常は見ることのできない角度からトイレの便器の中を観察できる。自分の排泄物を水が押し流す様子はグロテスクではあるが、私たちの体内と極似した光景であり、生きていることの証でもある。

という作品だそうだ。要はトイレで用を足したものが流れていく様子を見ることができるというシロモノだ。

様式便器のちょうど水がたまっている下のあたりがガラス張りになっていて、そのガラスの下にビデオカメラが置いてある。カメラからは便器の正面に据え付けられたモニタに映像が出力されている。トイレの入り口に「録画や映像配信などしてませんよ」という旨の注意書きが書いてあって笑った。こんなもの見たくないよという人には、映像を切るスイッチも用意してある。

正直、これは真面目に“大”をして流すくらいの余裕がないと楽しめない。夫婦で入ってトイレットペーパーを流してみたが、いまいちインパクトに欠けた。むしろ、どこでどうやって画像を取ってモニタに出力しているのかのほうが気になってしまった。

便器の下には上で書いたようにガラス張りの部分があって、下にはあつらえたようにビデオカメラが収まっている。もしかした本当にあつらえたのかもしれない。カメラは鏡越しにガラスの向こう側を映すようになっていて、その映像がケーブルを伝ってモニタに繋がっている。途中には電気のスイッチの付いたボックスがあり、映像をON/OFFできるようになっている。水を流すと、ガラスの上に乗っかるかたちで収まっている排泄物が、勢いよく押し流される。

帰ってきて冷静になって考えると、実は一番見なければいけない展示だったんじゃないかと思う。見た瞬間はあっけなくて並んだかいがなかったと思ったんだけれど。あれが常設展示になったらさぞかし話題の美術館になるだろうな。

ピピロッティ・リストという人の熱さが伝わってくる展覧会だった。

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