- Sep
- 30
- 2007
『暗号解読(サイモン・シン /青木 薫 訳)』を読んだよ。
これだけインターネットが普及して、日常的に電子ファイルをやり取りする今日この頃。
P2Pだかで機密情報の流出が騒がれて久しいけれど、そういう人為的な流出や、個人の意識の話は置いといて、「電子ファイルは容易に盗聴できるから、重要なファイルは暗号化して送る」というのは、インターネット系企業でなくともそろそろ常識の域に来ているような気がする。
暗号っていうとPGPくらいしか思い出せなかったけれど、この本はそのPGPを含め、メッセージを単純に隠すという暗号化(というには単純すぎるが)から、量子力学を応用した文字通り「最強の暗号」までを取り扱い、暗号作成者と解読者の見えざる競争の歴史を色鮮やかにドラマチックに描いている。
情報戦の要となる暗号は、戦争の歴史を通じでとても重要な位置を占めていた。暗号解読の成否が国家の存亡に関わることもしばしばだという。
そのなかでも、ドイツが用いた“最強の”暗号器械「エニグマ」によるエニグマ暗号の解読にまつわるエピソードには不謹慎ながらも胸が躍る。
第2次大戦の開戦前、第1次大戦に勝利し、優位に立っていた連合国は、解読不可能と言われていたエニグマ暗号の解読をあきらめていたという。唯一、ドイツの侵攻とロシアの脅威を肌身に感じていたポーランドだけは、この暗号の解読に積極的に取り組んだ。恐怖と逆境が暗号解読に必要なのかもしれないと著者は言う。
暗号作成側のエピソードでは、なんといっても「鍵配送問題」に関するエピソードが面白い。これには唸るほど感心した。「鍵配送問題」は暗号について回る弱点の1つで、ある文書を暗号化するときに決める暗号の「鍵」となる言葉や文字列にまつわる問題である。
例えば、単純な暗号であるアルファベット換字式暗号で「JULIUS CAESAR」を鍵(鍵句/キーフレーズ)として用いると以下のようになる。まず、鍵の重複するアルファベットとスペースを除き、それをアルファベットの先頭に置き、そのあとに続く文字をつなげていく(鍵と重複する文字を除く)。これが暗号アルファベットである。
通常のアルファベット:abcdefghijklmnopqrstuvwxyz
暗号アルファベット :JULISCAERTVWXYZBDFGHKNMOPQ
つぎに、通常のアルファベットに対応する暗号アルファベットを文章に適用すれば完成である。
通常の文章:even you, brutus?
暗号文 :SNSY PZK, UFKHKG?
暗号の正当な受信者は、発信者が暗号化した文書を「鍵」を使って復号して初めて読むことができる。つまり暗号作成者と受信者は、お互いに同じ「鍵」を知らなければならない。
さらに、暗号の安全性を高めるために「鍵」には意味のない文字列を使用し、さらに毎日交換する。発達した無線通信のために、「鍵」は多数の暗号作成者と受信者との間で共有しなければならなくなっていた。
下巻ではこの「鍵配送問題」に重点が置かれており、その論理の飛躍に唸るほど感心する。さらにはPGPに代表される、暗号は国家のためのものか、大衆のためのものかという問題、暗号にとっての終着点ではないかと目されている量子コンピューターと量子暗号の研究について。いずれも興味深いが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできないw
暗号解読は、その偉業の多くが極秘扱いになっており、戦争の勝利にどれほど貢献しようとその働きを講評することはされず、何十年もあとに日の目を見ることも多い。暗号解読者たちは、英雄として歓呼されるどころか、その偉業を知られぬまま他界する人も多い。なかなか辛そうな職業だが「世間に認められたくてこの業界にいる人はいませんよ」という言葉に納得した。
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